【ワークショップクラブ通信】あっちがわとこっちがわをつくる。(2015/6/13実施)

毎月1回不定期で開催している『今月のワークショップクラブ』は、
略すと『こんわく』になります。
漢字にすると「困惑」、どうしたらいいかわからなくて
とまどう様子のことです。
ワークショップとは、
そんなどうしたらいいかわからなくて、とまどうようなことが
目の前で起こった時に、一歩目を踏み出してみたり、
立ち位置を少し変えて状況を見つめ直す視点を得たりすることが
できる場だと考えています。
さて、今月の『こんわく』は、
いつもとは少し違って、中島が講師を務める「〜〜」の講座の
一環として一般公開され、多数の見学者が来園する中、
《あっちがわとこっちがわをつくる》というワークショップを行いました。
あっちがわとこっちがわをつくるは、ケンカや対立を生み出す
ワークショップではなく、壁を通じて”向こう側”を自分たちでつくり出し、
向こう側にいる他者と対話するワークショップです。
(このワークショップは、2年前に清心幼稚園の
年中さんたちと遊びながら考えたワークショップで、
2013年に千葉県で初めて実施されたものです。)
まず、最初に⚪︎×クイズのような形式で、
参加者を2つのグループに分けていきます。
だいたい同じ人数に分かれる質問を探していくのですが、
これがいつもなかなかうまくいきません。
「どちらかと言えば赤が好きか?青が好きか?」
「パープルが好きか?ブラウンが好きか?」
「犬が好きか?猫が好きか?」
「清心幼稚園の卒園生か?他の幼稚園・保育園の卒園生か?」
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などと質問していきますが、意外と半々にはならず、
「旅行に行くなら、イタリアか、北海道のどちらに行きたいか?」という
絶妙な2カ所を比較した質問でようやくチーム分けが成立しました。
次に、イタリア派と北海道派が、それぞれ真ん中に引かれた線を
越えられないようにするために、用意した大量の新聞紙と
養生テープを使って真ん中に1つの壁をつくっていきます。
大人を対象に壁作りを行うと、効率良く壁を立ち上げる方法を
考える傾向があり、シンプルな壁になることが多いのですが、
子どもたちは効率的な作業なんてお構いなしなので、
「これは壁になるのか!?」と、不安にさえなるものができていき、
想像もできなかった形の壁ができたり、壁との関わりが生まれたりします。
今回は会場となった清心幼稚園のホールの床を全て新聞紙を
広げて埋め尽くしていたことも影響し、まずは敷かれている新聞紙が
真ん中に集められて山ができました。
あくまでお題が「壁」だったので、この山の上にひょろっとした壁が
立ち上がったのですが、この2段構造の壁がとてもおもしろい関わりを
生み出していきます。
この壁はもともと、イタリア派と北海道派が行き来できないように
するために建てらてた国境線のようなものなのですが、
一度広げた新聞紙を集めて山にしているため、
下の段はふわふわな新聞紙の山なので、掘って突き進むと
壁の向こう側に抜けられることを発見した子たちによって、
まるで、密入国するための抜け道がいくつもできていきました。
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特に厳しい処罰はありませんが、このワークショップの唯一のルールは、
お互いの間に引かれた線を越えてはいけないことくらいです。
ただの線だけだとうっかり越えてしまうかもしれないので、
壁をつくります。
お互いを分断するための1つの壁を、
両側のチームの共同作業でつくっていくところに、
このワークショップの妙なポイントがあります。
だんだんと壁の背が高くなってくると、お互いが見えなくなってきます。
見えなくなってくると、お別れしてしまうようですが、
向こう側にいる人たちと何かコミュニケーションを
取りたくなるのがもう一つのポイントです。
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新聞を丸めて投げてみたり、穴を開けて向こう側を除いてみたり、
秘密の抜け道をつくったりと、お互いを分断したことが
逆に壁を通じた新しいコミュニケーションを生み出し、
考え方(選んだこと)の違いで壁の反対側に立たされた人たちの中にも、
普段仲のいい友達がいたりと、人と人の関係性が浮かび上がってきます。
私たちはそれぞれ違う人間同士です。
考え方や好きなものなどはみんな違います。
その違いを受け入れることがなかなか難しい時があり、
しばしば私たちはケンカをしたり、すれ違ったりしてしまいます。
友達同士のケンカならまだしも、集落同士の争いや差別、
国同士の戦争にもなったりします。
アートは、学問の中では唯一他の人と答えが違ってもいい、
正解のない分野だと言われています。
足し算の答えがみんな違ったらちょっと困っちゃうかもしれませんが、
アートはみんな違っていいんです。
そんな考え方が社会のベースになったらいいなー。
(記:中島佑太)